園芸療法とは、園芸を療法的に活用するために、専門家が目的を持って介入する支援のことですが、そもそも日常的に行う園芸やガーデニングには人の心や体を癒す力があり、健康づくりやストレスの予防にも役立ちます。忙しい毎日の中で植物を育てたり、自然と触れ合う時間を持ったりすることの大切さを、一般社団法人日本園芸療法学会理事長の浅野房世さんに伺いました。
園芸療法とは?
園芸療法ってなに?
園芸療法とは、 医療や福祉、介護の現場などさまざまな領域で、支援を必要とする人たちの幸福を、園芸を通じて支援する活動のことです。第二次大戦後のアメリカで発展し、日本では1990年代に提唱されるようになりました。アメリカでは音楽療法や絵画療法と同様に捉えられており、園芸活動を通じて身体的、精神的なアプローチ行います[1]。心身の機能回復や生活の質(QOL※)の向上、社会参加の促進など、対象者の目標に応じたプラグラムを設定するなど幅広い役割を担うのが園芸療法士です。園芸療法士は業務独占でも名称独占もないために、園芸療法士を名乗る方も多いかもしれませんが、一般社団法人日本園芸療法学会では、基本的な知識と臨床経験のある人を、判定のうえ認定しています。園芸療法士には、対象者の状態を把握し、目的に応じたプログラムを考え、実践するための知識や技術が求められます。
園芸療法の対象は、認知症などにより日常生活に困難を抱える高齢者や、がん患者、発達障害のあるお子さん、リハビリテーションを必要とする人など、多岐にわたります。自分一人の力では生活機能の回復や維持が難しい人のために、介護施設や病院、在宅などで、「歩行を促す」「手足の機能を回復させる」「外出意欲を高める」「前向きになれる」など、さまざまな目的で行われます。あくまでも療法的なアプローチによって園芸療法士が介入する必要があるため、自ら楽しむ園芸やガーデニングとは区別して考える必要があります。
なぜ、植物は心を落ち着かせるのか
一方で、治療としての「園芸療法」とは別に、日常の園芸やガーデニングにも、人を癒す力があることがさまざまな研究により明らかにされています。たとえば緑豊かな公園で過ごしたり、庭に咲く花や木々の手入れをしたりするだけでも、気分転換になります。また、森林の中で20〜30分過ごすことはストレスホルモンの「コルチゾール」を軽減させることや、森林の香りが自律神経の副交感神経を活発にして、リラックス効果を高めることなどがさまざまな研究でわかっています。
病室から見える緑がもたらす回復効果
アメリカの環境心理学者Roger S. Ulrich博士が1984年にサイエンス誌で発表した研究論文によると、胆嚢摘出手術を受けた患者について、病室から緑が見える患者は、レンガ塀しか見えない患者よりも手術後の回復が早く、鎮痛剤の使用量が少なかったとあります[2]。こうした研究は自然や緑が人の心身によい影響を及ぼす代表例として知られています。
園芸が満たす人間の欲求
また、園芸療法という概念の提唱者でもあり、園芸や植物とのかかわりが人の心身や社会に及ぼす影響について、長年調査・研究を続けている九州大学名誉教授の松尾英輔氏は、人には「育てること」と「手に入れること」を求める根源的な欲求があり、園芸は両方を満たす数少ない活動であるとしています[3]。つまりは種や苗を育てる過程には成長を見守る喜びや、花や実などを収穫する達成感、そして収穫したものを料理する喜びまで含まれて、人間の本能を満たすことにつながります。
命ある植物が「第三者」になる
園芸療法は患者と支援者が直接向き合うだけでなく、その間に植物が介在することも大きな特徴です。たとえば、引きこもりの人や精神疾患の患者の場合、植物という命ある存在が「第三者」として存在することで、植物の世話をしながら時に話しかけ世話をするうちに、自然に自分の心の中にある不安や願いなどを声に出しやすくなるからです。また、種蒔きや、雑草や枯れ葉を除く作業では手を使うため、頭が刺激されて認知機能の維持に役立つことがあります。認知症の方が園芸療法を続けると家族や介護士との会話が増え、暴力や徘徊、失禁が改善したケースがあるなど、前向きな変化が期待できます。認知症そのものが治るわけではありませんが、いきいきとした表情で、自分で育てた野菜について得意そうに話をするなど、QOLは上がるといえるでしょう。
植物と触れ合う時間が、毎日をすこやかに
ストレスをため込まない暮らしへ
植物に触れることは、仕事や家事、子育てなどで日々ストレスを抱える人にとっても、それ以上悪化させないための「一次予防」に役立ちます。体調を崩しそうなときこそ植物を育てることをお勧めしたいのは、植物を眺めたり、触れたりすることは自分自身の心身の状態を整え、ストレスの解消に役立つからです。もしガーデニングが億劫であれば、室内に観葉植物を置くといいでしょう。室内に心を向けられる存在があるだけでも気持ちにゆとりが生まれます。植物には、季節の変化を感じさせてくれるという魅力もあります。芽が出て、葉が茂り、花が咲き、実を結ぶ。その変化を日々眺めることは、暮らしの中に小さな楽しみをつくってくれます。
植物は介護をする人の休息にもなる
介護が必要な人のご家族にとっても、植物を育てる時間を持つことは「ひと息つける時間」になります。介護のストレスをレスパイト(休息)することが、心理的負担の軽減につながるという意味でも植物の力は大きいでしょう。
今日からできる植物との暮らし
庭やベランダで野菜や花を育てたり、室内で観葉植物のある暮らしを楽しんだり、公園を散策して緑に包まれてのんびり過ごす。植物や自然と触れ合う時間には日々をすこやかに過ごすヒントが詰まっています。
- ◆参考文献
- [1]
浅野房世・亀山 始・三宅祥介 著(1996)
『人にやさしい公園づくり:バリアーフリーからユニバーサルデザインへ―』鹿島出版会
- [2]
Ulrich RS. (1984) View Through a Window May Influence Recovery from Surgery. Science. 224(4647): 420−421.
- [3]
浅野房世・元 子怡・三宅麻未 著(2026)
『園芸でケアする~高齢者のしあわせ探し~』風景パブリッシング