心を整えるMental health

東洋大姫路高校野球部 岡田龍生監督インタビュー<後編>「人間力を高める指導」とは

東洋大姫路高校野球部 岡田龍生監督インタビュー<後編>「人間力を高める指導」とは

先月に引き続き、名将・岡田龍生監督にお話を伺いました。野球の上達には、試行錯誤しながらもできるようになるまでの過程を含めて楽しみ、練習に励むことが大切とのこと。野球の技術だけでなく人間力を高める指導法や、プロ野球で活躍する履正社OB・山田哲人選手の心に火をつけた面談時のお話も伺いました。

何事も「好きこそ物の上手なれ」

監督に就任してから最初に行った練習試合のときに、選手たちに「野球やってて楽しいか?」と聞いたことがあります。私自身、高校時代を振り返ると練習が大変で苦しいことばかりでしたが、彼らも楽しくなさそうに見えたんです。結果を出すために練習に励む中で、楽しみを見いだすことができたら、もっと積極的に野球に取り組めるようになるし、上手くなるんです。じゃあ、その楽しさって何かというと、ワイワイガヤガヤすることではなく、自分の頭で考えて何度も実践し、達成したときに感じる楽しさや喜びなんです。偉大な発明家もそうですが、苦労して数えきれないほどの失敗を重ねて、やっと完成したときに楽しさや喜びを感じるもの。勉強だって難しい問題が解けないときに、違う方法でアプローチしてみて解けたら、だんだん面白くなってくる。それと同じです。

何かをできるようになるためには、まわりの人の話に素直に耳を傾けることも大切です。しかし、聞いたことのすべてを取り入れる必要はありません。自分の中で取捨選択するのが大事だということは、選手たちに伝えています。よかれと思ってアドバイスしてくれたとしても、果たして自分に合うかどうかはやってみないとわかりません。一度やってみて、違うと思ったらやめたらいい。その判断ができないと、自分のフォームを崩してしまう可能性があります。 オフシーズンの面談時に、前月よりも評価が下がっている1年生に「マイナスになる原因を自分で考えているか」と聞いても、10人中10人が黙ったまま。考えて取り組む習慣がないことがわかります。先月よりうまくできなかったら、少しでも改善するように自分で考えることが大事です。そこで私が答えを言ってしまうと成長はないし、「教えすぎ」になります。プロセスを見直す際の考え方を伝えておいて、自分自身で振り返り原因を探るしかない。例えば、トレーニングをサボっていたのか、食事を十分にとっていなかったのか、何か原因を見つけて改善したら、必ず結果も変わってきます。

スタメンに選ばれていない2年生・3年生にも、同じことの繰り返しでは、いつまで経ってもメンバーに選ばれている選手に追いつけないという話はしています。

高校生をやる気にさせる声かけ

最近の高校生は自主性に欠ける、自発性がない子が増えているといわれます。性格的に負けず嫌いの子もいますが、確かに数は少ないと感じます。私にはこどもが3人いますが、幼稚園の運動会を見に行ったとき、昔みたいに1番、2番の順位をつけずに、みんなで手をつないでゴールするのには驚きました。 勝ったり負けたりすることで悔しさも身につくでしょうし、次、頑張ろうという気持ちにもなる。競争しないことに慣れてしまうと、前を走っている相手を追い抜かして、よしっ!自分が前に出てやろうという気持ちが薄れると思います。

それでも野球は競争の世界。その中で生き抜くためには選手たちをその気にさせる指導が大切です。こういうときに思い出すのが、2010年に東京ヤクルトスワローズからドラフト1位の指名を受けた山田哲人のこと。彼は身体能力が高く、真面目で才能がありましが、ガツガツした感じのない選手でした。2年生の面談で「プロ野球に行きたいです」と話した彼に、「プロ野球で通用する能力は十分にあるが、本気で行きたいという気持ちの部分が甘いし、もっと真剣に野球と向き合わないといけない」と伝えました。そこから人が変わったように練習への姿勢が変わり、隠れていた能力が表に出るように成績も上がりました。

スカウトに来る人はヒットやホームランだけではなく、内野ゴロでも全力疾走する姿や、チェンジになってベンチに帰ったらどんな立ち振る舞いをするかとか、そういう部分も見ているという話もしました。以降、山田に指導することは卒業まで一切ありませんでした。高校生って「いかに気持ちを変えてやるか」が大事なんです。時間も手間もかかりますが、選手のためになる声かけをするよう意識しています。

日常の些細な習慣がプレーに影響する

普段から忘れ物が多い選手や時間にルーズな選手は、試合中もサインを見逃すなど凡ミスを何回もする傾向にあります。もちろん、集中力がないとか性格的な要因もあると思いますが、ミスの原因のひとつは「準備不足」だと思うんです。例えばこどものころ、学校に行く前日に親から「かばんに持ち物を入れて準備しときなさいよ」と言われましたよね。きちんと準備できていたら朝も余裕があるのですが、朝起きてから慌てて用意すると忘れ物も多くなる。準備が苦手な子は小・中学時代、学校から帰ってかばんを置いておいたらお母さんが練習着を出して洗濯して、畳んでくれるのに慣れていることが多いと思います。

野球部では最近、準備してあげるのがあたり前と思っている保護者が多いので、身の回りのことは自分でするよう言ってくださいとお話しします。やっぱり身の回りのことをきちんとできないと、野球のプレーも上達しないと思います。

人間力の高い選手を育成したい

昔と違って、今はとくに自主性や自発性が求められる時代。ミーティングで選手たちに話すのは野球以外のことも多く、教室では絶対に教えないようなことも学べると思うんです。話したことをすぐに理解してもらうつもりはありません。卒業して5年先、10年先、社会に出てから「あのとき、監督が言っていたことは、こうだったんだ」と気づいてもらえたらうれしいですね。東洋大姫路高校野球部監督に就任して今年で4年目。これからは、将来プロ野球でも東洋大姫路出身者が増えるようにどんどん力をつけていくつもりです。それから野球の技術だけでなく、人間力が高く、野球界でも社会でも活躍できる。そういう卒業生を増やしたいですね。

INFORMATION

監修 岡田龍生
東洋大姫路高校で3年生のときに主将としてセンバツに出場し4強入り。日本体育大学卒業後は社会人野球で1年間プレーする。その後、35年間監督を務めた履正社では2019年夏に全国制覇するなど春夏通算13度の甲子園出場を果たす。名将としての手腕を買われ、母校を再建するべく2022年から監督を務め、昨夏の大会ではベスト8に輝く。2026年からU-18日本代表の監督に就任。
文字サイズ