私たちヒト(人間)は、偏った食事をしていると糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病のリスクを高めます。しかし、ライオンやハイエナは肉を好み、キリンやウマは植物をたくさん食べていますが、健康面では大丈夫なのでしょうか?動物の知られざる体の秘密や健康管理について、天王寺動物園の向井猛園長に教えていただきました。
肉食系と草食系
動物の偏食は大丈夫⁉
動物の食性には草食系と肉食系、雑食系があります。私たちヒトはサルや熊と同じ雑食系で、肉や魚、野菜などの食べ物から、バランスよく栄養素をとります。なので、草食系や肉食系は「偏食なのに病気にならないの?」と、不思議に思うでしょう。動物は自然界で生き延びるために、進化の過程で体のつくりが変化していき、それぞれ食性に合った消化プロセスがあるから大丈夫なのです。
草食動物は主に植物の草や木の枝葉などが栄養源になります。植物の主成分は、炭水化物の食物繊維(セルロース)ですが、ほとんどの動物は自分の消化酵素で食物繊維を分解することができません。そのため、草食動物は食物繊維を分解してくれる微生物(バクテリア)を消化管内に共生させ、その力を借りて効率よく消化を行っています。
たとえば、キリンは背の高さや首の長さだけでなく、胃の仕組みや消化プロセスも私たちヒトとは大きく異なります。キリンには牛と同じように胃が4つあり、第一胃と第二胃に食物繊維を分解してくれる微生物が棲んでいるのです。食べ方にも特徴があり、噛んですりつぶした植物を飲み込み、口へ戻して噛んでさらに細かくし、また飲み込むことを繰り返す「反芻(はんすう)」を行います。同じ草食動物でも馬には胃が1つしかなく反芻もしませんが、その先の大腸に微生物が棲んでおり、食物繊維の分解を手助けしています。この微生物のおかげで、草食動物は体の中でたんぱく質がつくられ、大きな骨格や筋肉ができます。だからベジタリアンの彼らには、プロテインは必要ないのです。
一方、肉食動物は肉ばかり食べてビタミンや食物繊維が不足するのではないかと思われるでしょう。たとえば、ライオンは狩りで獲物をしとめて、生のまま肉を食べますよね。生肉は熱に弱いビタミンやミネラルも壊れないで摂取でき、肝臓などの内臓に含まれるたくさんの栄養も取り入れることができます。それに獲物の草食動物の内臓に残っていた植物も一緒に食べていることになりますから食物繊維もとれているんですね。彼らの胃は強力な胃酸を出し、生肉についた細菌を殺菌して消化します。私も肉は大好きですが、安全に食べるために焼いて食べますから、ライオンと同じようにたくさんの栄養を吸収することはできません。
消化プロセスがユニークな動物が、歯のない鳥類です。「噛まずに食べたら消化に悪そう」と思いますよね。でも心配ご無用!鳥にはヒトと同じように食べたものを消化液で分解する「腺胃(せんい)」と、もう1つ別に「筋胃(きんい)」という胃があります。この胃の中にはあらかじめ飲み込んでおいた小石や砂が入っていて、筋胃の筋肉を動かしながら食べ物とこすり合わせて細かくしていき、歯の代わりとなって消化を助けているのです。これがいわゆる「砂肝(砂ずり)」です。
残念ながら私たちヒトは、動物のような特別な消化プロセスをもっていません。だから肉や魚、野菜をバランスよく食べないとけないし、じょうぶな歯をキープするためにお手入れも必要なのです。
驚くような進化を遂げた動物ですが、自然界と違う食生活を送ると病気になってしまいます。天王寺動物園でも「動物に食べ物をあげないでください」とアナウンスをしていますが、これは動物たちの“いのち”を守るため。たとえば、お菓子やパンなどの嗜好品は、動物たちも大好きです。しかし、そうした食べ物はヒトがつくったもので、本来の自然界には存在しないものです。ヒトも動物もカロリーが高いものを食べすぎると肥満になるし、塩分をとりすぎると高血圧にもなります。
動物たちが果物をむしゃむしゃと頬張る姿をイメージされる方もいらっしゃると思いますが、食べすぎると糖尿病になってしまうので、適切な量を担当の飼育員が栄養管理しています。
動物園に来られたときは、ぜひ動物たちがごはんやおやつを食べているところを、ゆっくりと観察してみてください。大きな臼歯で植物をすりつぶす草食動物と、尖った裂肉歯で肉をかみ切る肉食動物の口の動かし方の違いや、歯のないペンギンがどうやって餌を食べるかなど、比べてみるとおもしろいですよ。 キリンは反芻の様子が見えるので、長い首に注目してください。天王寺動物園ではおやつ・ごはんタイムの実施時間をホームページで紹介しています。来場される際には、ぜひチェックしてくださいね。
天王寺動物園の健康診断
天王寺動物園には、チンパンジー、サバンナモンキー、フクロテナガザル、ドリルなど、たくさんのサル科の動物がいます。サルたちはヒトと同じように、年に1回健康診断を行っています。身体測定、血液検査、胸部と腹部のレントゲン、歯科検診も行います。また、「ボディコンディションスコア(BCS)」といって、動物の体を見た目と手で触れた状態から、脂肪のつき方や体形を読み取ります。BCSで肥満と判定されたらダイエットにも取り組みます。
ほかの動物たちも不定期ですが健康診断は行っています。動物たちが順序良く並んで獣医が検査を行うことも、採血させてくれることもありませんから、大半の動物は麻酔などで一時的に動かないように保定して、安全に検査を行えるようにしなければなりません。園では麻酔などによる体への負担やストレスを軽減するために、「ハズバンダリートレーニング」 に取り組んでいます。これは、保定なしで動物が自ら行動して健康管理ができるようにする訓練です。昔では考えられないことですが、いまでは麻酔なしでたくさんの動物の体重測定や採血、伸びた蹄(ひづめ)を削ることなどが可能になりました。ホッキョククマのホウちゃんは指の間から、アミメキリンの幸弥くんはちゃんと頭を下げて長い首から採血させてくれるんですよ。
キリンや馬、サイなど蹄を持つ有蹄(ゆうてい)類の健康管理に欠かせないのがフットケアです 。蹄は歩くことで自然に削れるのがベストですが、運動不足で伸びすぎたり、病気で蹄がやわらかくなったりします。蹄に問題を抱えると、立っているのに大きな負担がかかり、そのあと歩けなくなります。大型の有蹄類ではそれがきっかけで死んでしまうこともあるんです。ヒトも高齢になって歩けなくなると寝たきりになってしまいますよね。動物もヒトも適度な運動とフットケアがすごく大事です。
天王寺動物園では、動物のQOL(生活の質)を高めるために、「環境エンリッチメント」に取り組んでいます。動物本来の姿が発揮できるように飼育管理と、適切な環境を整える工夫を職員みんなで意見やアイデアを出し合っています。動物たちの健康を守るためには、なにより愛情を注いで育てていくことが大事なのです。
動物園に来ていただくと、インターネットではわからない、動物のにおいや、驚くような行動を見ることができます。動物たちを通して、ヒトと動物、すべての生きものが共生し、健康に暮らせる社会づくりのきっかけになればうれしいです。
天王寺動物園の営業時間・アクセスなどの詳細は、こちらのホームページをご覧ください。