生活習慣病は加齢にともなって罹患率が高くなり、40~60歳の働き盛りに多い疾病として「成人病」と呼ばれていました。しかし近年の調査研究では、胎児期の発育環境やこどもの頃からの生活習慣が将来の肥満や生活習慣病に関与し、生涯の健康を左右することがわかってきました。今月はこどもの肥満について、小児科医の須永紋奈先生に伺いました。こどもの未来のために早い時期から健康貯金を始めましょう。
こどもの肥満は
なぜいけないのか
肥満とは、体に脂肪が過剰に蓄積した状態のことを言います。こどもの肥満の多くは、病気に起因するものではありません。主に食事の過剰摂取や運動不足などの生活習慣に加え、遺伝的素因(体質)が組み合わさることで発症します。このように明らかな病因を認めないものを「原発性肥満」と呼びます。 肥満は、こどもにおいても大人と同様にさまざまな医学的異常や健康障害を合併し、心身に悪影響をおよぼします。
- 健康障害
- 肥満に起因する健康障害を合併し、治療が必要である状態を「肥満症」と言います。こどもであっても、高血圧、脂質異常症、脂肪肝、2型糖尿病といった生活習慣病を発症します。また、こどものころから動脈硬化が進行するため、将来的に心筋梗塞や脳卒中を起こすリスクが高まります。
- 運動機能障害
- 膝・腰などに負担がかかり、ケガをしやすくなります。飛んだりしゃがんだりする動作ができなくなることで、さらに運動不足になるという悪循環が生じてしまいます。
- 心理的問題
- 「太っている」と言われることで自尊心が低下したり、コンプレックスを抱えたりするなど、肥満が精神面に関与することがあります。こどもの場合、不登校やいじめに発展することもあります。
Q
どれくらい太っていると肥満というの?
A
- ※般社団法人日本小児内分泌学会の使用許諾を得て掲載しており、
無断転載、複製は禁止されています。
肥満度判定曲線シート(PDF)を、
年齢・性別に合わせてダウンロードして下さい
こどもの成長と肥満
こどもの肥満は大人の肥満のもと
こどもの肥満の一番の問題点は、大人の肥満のもととなり、将来の生活習慣病の発症リスクを高める可能性があることです。小児肥満は発症時期により、乳児肥満、幼児肥満、学童肥満、思春期肥満の4つに分けられます。乳児期(1歳未満)の肥満は自然に解消する生理的なもので、授乳量や食事量を特別に制限する必要はなく、将来の肥満や生活習慣病との関連も少ないとされています。一方で、幼児肥満は学童肥満、思春期肥満、さらには成人肥満につながっていきます。実際に、幼児期(1~6歳未満)に肥満だったこどもの2割、学童期(6~12歳)は約4割、思春期(10~18歳)に至っては7~8割のこどもが成人期まで肥満を持ち越しています。さらに、小児肥満から成人肥満に移行した人の動脈硬化性疾患の罹患率は、成人期に肥満となった人と比べて約4倍と言われています。学童肥満、思春期肥満を予防するために、正しい知識を得て幼児期から対策することが重要です。
アディポシティリバウンドについて知ろう
BMI(Body Mass Index)は、体重(kg)÷身長(m)の2乗で簡単に求めることができる体格指数です。一般に出生後から6か月頃にかけてBMIは上昇し、その後、ハイハイしたり歩き始めたりすると活動量が増えてBMIはいったん低下します。6歳前後に最低値となり、再び成人期にかけて増加するという経過をたどります。このように幼児期にBMIが再上昇する現象を「アディポシティリバウンド(Adiposity rebound:AR)」と言います。実は、この幼児期のARの時期が早いほど、学童期以降に肥満になりやすく、将来、生活習慣病を発症するリスクが高いとされています。
ARが早期に起きているかどうかの判定には、1歳6か月健診と3歳健診のBMIを目安にするとよいでしょう。通常、3歳時のBMIは1歳6か月時のBMIよりも低くなりますが、3歳時のBMIが1歳6か月時よりも増加している場合には、ARが早期に起こっていると考えられます。このようなケースでは、3歳時点で肥満に至っていなくても、将来的に肥満のリスクが高いと判断できるため、慎重に経過観察を行いながら、早い時期から予防に取り組んでいくことが重要です。ARはあまり聞き馴染みのない言葉かもしれませんが、肥満のリスクを早期に予見できることから、これを機にぜひ注目していただけたらと思います。
アディポシティリバウンドの始まった年齢とBMIの変化
では、ARが早期に起こらないようにするにはどのような対策が必要なのでしょうか?ARの起こる時期に影響を与える主な因子として、出生体重と幼児期の生活習慣があります。それぞれについて詳しくみていきましょう。
女性の「やせ」が招く、母体の低栄養
出生体重は、将来肥満になるリスクを考える上で重要な因子です。近年、2,500g未満の低体重で生まれたこどもは、ARの時期が早くなる傾向にあり、成人後に生活習慣病になるリスクが高いことが調査研究からわかってきました。
こどもが低体重で生まれる原因 の一つとして、母体のやせ(BMI 18.5未満) があります。妊娠前から無理なダイエットや偏った食生活を続けている女性は、妊娠したときに必要なエネルギー量や栄養を十分にとることができず、結果として胎児の低栄養につながる場合があります。胎内で低栄養状態に置かれた胎児は、少ない栄養で生き延びるためにエネルギー効率の良い脂肪をため込む倹約型、いわゆる「肥満体質」を獲得するため、出生後、通常の食事をとっていても太りやすく、肥満をきしたしやすくなります。
Q
母体の低栄養以外に赤ちゃんの出生体重に影響を与える因子はありますか?
A
こどもの肥満を予防するための幼児期からの取り組み
ARの時期を早める要因として、ジュース類やお菓子の過剰摂取、朝食を食べない、運動不足、長いスクリーンタイム(テレビやゲーム)、睡眠不足などの不規則な生活習慣があげられます。大人と同様にこどもにおいても一度身についた悪い習慣を改善するのは難しいもの。生活習慣の獲得は2歳頃から始まるため、早い時期から健康的な生活習慣を身につけることは、肥満予防において非常に重要です。バランスのよい食事をとる、外遊びやお手伝いを通じて体を動かす習慣をつける、早寝・早起きをするなど、幼児期から規則正しい生活リズムを身につけるようにしましょう。
もしもこどもが肥満になったらどうしたらいい?
小児期は、体をつくる大切な時期なので、成長に必要な栄養を十分にとる必要があります。自己判断で極端な食事制限をすることは、成長の妨げにつながりかねません。必ず医療機関を受診し、適切な指導を受けるようにしましょう。また、ごくまれにこどもの肥満の中には「二次性肥満」といって、病気が隠れている場合もあります。こどもの体格が気になる、肥満傾向が続く場合には、一度小児科の医師に相談しましょう。
まずは小児科を受診して相談しましょう
母体の栄養状態(低栄養・過栄養)、喫煙、ストレスなどの胎児に悪影響する環境因子が、赤ちゃんの出生体重に影響します
実際には、出生体重が大きくても小さくても、ARの時期が早くなることで、その後の生活習慣病の発症リスクが高まる可能性があります。
ご自身の健康だけでなく、生まれてくる赤ちゃんのためにも、妊娠前・妊娠中の健康的な生活習慣や体づくりを心がけるようにしましょう。
肥満の判定は、肥満度という指標を用います。幼児の場合は肥満度+15%以上、学童期以降は+20%以上で「肥満」と判定されます。また、ご家庭で簡単に肥満度を判定できる方法として、「肥満度判定曲線(身長体重曲線)」があります
肥満度は、(実測体重―標準体重)÷標準体重×100(%)で求めることができます。標準体重よりも実測体重が上回る場合はプラス、下回る場合はマイナスとなります。
肥満度判定曲線のグラフにこどもの身長(X軸)と体重(Y軸)の交点をつけると、現在の肥満度を知ることができます。定期的に記録することで、肥満の早期発見につながるだけでなく、肥満がいつから起こってきているのか、今も肥満傾向が続いているのかなど視覚的に情報を得ることもできます。幼児の場合には、母子健康手帳にも添付されていますので、ぜひ活用してみましょう。