2011年に乳がんと診断された前田留里さん。2015年に働く世代のがん患者の支援団体を設立し、現在はがん患者のサポート、がんに関する講演や政策提言などを行っています。しかし、治療当時は知らないことやわからないことが多く、治療の選択に苦慮し、「死」を意識したこともあったそうです。経験を通じて痛感したのは、がんのことで悩んだとき、自分ひとりで判断せず専門家(医療者)に相談する大切さでした。
乳がんについて多少の知識はあったけれど、
現実は想定外の連続だった
乳がんが見つかる前から医療法人で人間ドックの仕事をしていたので、乳がんのリスクはある程度知っていました。たとえば、出産経験がない、授乳経験がない、初潮年齢が低いなど。私はほとんど当てはまらないので、乳がんにだけはならないと思っていたのです。ですから、乳がんが見つかったときは「まさか」と思いました。
しこりを見つけたのは寝る前に何気なく胸を触ったとき。しこりがあって飛び起きました。座るとわからないけど、寝転ぶとわかりました。よく「入浴やシャワーのとき乳房の状態を確認しましょう」と言われますが、それでは気づけなかったかもしれません。仕事柄、「乳がんは乳腺外科」という知識があったので、翌日の仕事帰りにかかれる乳腺クリニックを探して受診しました。しかし、組織の一部を採って調べる針生検をしても乳がんかどうかわからず、しこりを取り出して分析し、がんだったらもう一回、しこりの周りをさらに大きく切除すると医師から言われました。わからないなりに「それはちょっと…」と思い、示された方針に対する不安を勤め先の理事長に相談したところ、「大きな病院で詳しく調べてもらうこともできる」と提案されたことで選択肢が広がり、大学病院を紹介してもらいました。そして、1か月後に乳がんと診断されました。
がんは早期がんで、手術のあと放射線、ホルモン療法5年間という治療計画でした。この計画は私のがんの標準治療で納得のいくものでしたし、主治医から「手術したあとはそれほどつらい治療ではないからがんばりましょう」と言われたので、がんを切除したら何とかなると思っていました。しかし、手術後、がん細胞は乳腺組織から出て周囲の組織や臓器へ広がる寸前で、しかも悪性度の高いタイプだとわかり、主治医から抗がん剤治療をしたほうが再発率を下げられると提案されたのです。
治療はつらくないと聞いて安心していたのでがっくりしました。抗がん剤治療はやりたくなかったし、そのときは再発というと「乳房にまたがんができる」イメージで、がんが乳房から骨や肺、脳などに飛んで「転移」することもあるとは考えもしませんでした。ですから、「再発したときはまた手術で取ればいいですよね」と主治医に聞いたら、「転移するともう手術はできない。延命治療になるよ」と伝えられたのです。そのことを言いづらそうに伝えた主治医の顔が忘れられません。このとき初めて「私は死ぬ病気なのだ」と怖くなりました。「抗がん剤治療をするかどうか来週までに考えてきてね」と言われて病院を出たときとき、絶望感がいちばん大きかったです。
抗がん剤治療はやると決断したがホルモン療法は断念。もし相談していたら…
抗がん剤治療はやりたくないけど、やらないと死ぬ確率が上がる。でも…どうしても決められませんでした。主治医から再発率が5%程度下がると説明を受けましたが、当時はそれが抗がん剤治療のつらさを上回るものなのかもわからなかったからです。再び勤め先の理事長に相談したところ、「やれる治療があるならやったほうがいい」と言われました。「目に見えない小さながんが体の中を巡っているかもしれない。今だったら治療できる」と。治療できることはありがたい状況なのだと納得し、抗がん剤治療をすると決めました。医療従事者からきちんと説明を受けたうえで決めることの大切さを感じましたし、近くに信頼できる医療従事者がいてよかったです。
私はシングルマザーなので治療のために仕事を休むわけにはいかず、手術は年末年始の休みを利用し、放射線治療と抗がん剤治療は有給休暇などをやりくりして乗り切りましたが、ホルモン療法は1年でやめました。本当にしんどかったからです。ホルモン療法というのは女性ホルモン(エストロゲン)の分泌や働きを抑えてがん細胞を増殖させないようにする治療で、副作用として更年期症状に似た症状が現れることがあります。私の場合、急に体がほてったり寒くなったりを繰り返すホットフラッシュが頻繁に起こり、倦怠感も強く、仕事から帰ったら化粧も落とさずにそのままでベッドへ直行して朝まで寝ていることもよくありました。しんどくて家事もできず、こどもへの申し訳なさもありました。このとき、体がしんどいと精神的に落ちていくことも実感しました。
また、薬の副作用で認知機能が低下して仕事でミスを連発し、生きるための薬で毎日死にたくなる日々を過ごしていました。「もう無理だ」と思って薬をぜんぶ捨てました。治療しないことで「死」へのカウントダウンが始まったように感じたのを覚えています。もし、抗がん剤治療をするかどうか悩んだときと同じように医療従事者に相談していたら、治療をやめずに仕事と治療を両立できていたかもしれません。
こうした経験から、がんのことで悩んだときは、ひとりで判断せずに専門家に相談することが大切なのだと痛感しました。がん検診の受診についても自分の持っている知識や情報だけで判断せず、信頼できる医療従事者に相談したり、「国立がん研究センターがん情報サービス」の情報などを参考にしたうえで選択してほしいと思います。今は早期がんで発見できなくても治療法はありますが、人間ドックの仕事をしていると「もっと早くがんが見つかっていたらお金も時間も治療の負担も軽減したかもしれないのに…」と悔やんでいる方を見かけるので、がん検診は受けてほしいと思います。もちろん、私も受けています。
体が健康でこそやる気も出るし、感謝もできるし、やさしい気持ちにもなれます。健康に気を配ることに「遅い」ということはないので、今からでも自分の体に目を向けて、自分を大事にしてほしいです。
Column
ブレスト・アウェアネス
乳がんは、日本女性の9人に1人がかかるといわれています。ブレスト・アウェアネスとは、「乳房を意識する生活習慣」のこと。日ごろから自分の乳房の状態に関心を持ち、乳房に変化を感じたら、すみやかに乳腺外来のある医療機関を受診して医師に相談することで、乳がんの早期発見・早期治療につなげることができます。
ブレスト・アウェアネスを行う、4つのポイントを紹介します。
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自分の乳房の状態を知る(乳房チェック)
- 入浴やシャワー、着替え、就寝前のあお向けになったときなどに乳房を見て、触って、感じてみること。入浴の際に、石鹸を付けて撫で洗いするのもいいでしょう。
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乳房の変化に気をつける
- 普段の乳房の状態を知ることではじめて、変化に気が付きます。乳房のしこりや乳頭からの分泌物、乳頭や乳輪のただれ、乳房の皮膚のくぼみや引きつれがないかなど、いつもと変わりがないか気をつけてみましょう。
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変化に気づいたらすぐに医師へ相談する
- 乳房に変化があると、乳がんの初期症状の可能性があります。次の検診を待つことなく、乳腺外来のある医療機関を受診しましょう。
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40歳になったら2年に1回乳がん検診を受ける
- 乳がんで亡くなる女性を減らすことを目的に、日本では40歳以上の女性に対してマンモグラフィを使用した乳がん検診が推奨されています。「異常あり」いう結果を受け取った場合には、自覚症状がなくても必ず精密検査を受けるようにしましょう。