体を動かすFitness

運動のある暮らし運動習慣を身につけて
認知症のリスクを減らそう

運動のある暮らし 運動習慣を身につけて認知症のリスクを減らそう

認知症は病態解明が不十分で、根本的な治療薬や予防法は確立されていませんが、近年、さまざまな調査や研究により生活習慣と深く関係していることがわかってきました。なかでも定期的な運動習慣は予防効果が高いとされています。
認知症は高齢者特有の問題のように思われがちですが、実際には40代後半から脳の老化は始まっています。予防は何歳から始めても早すぎるということはありません。認知症だけでなく多くの病気の予防にもなる運動習慣を身につけましょう。

認知症は運動で予防できるの?

認知症にはいくつかのタイプがあり、それぞれの原因疾患によってあらわれやすい症状や治療方法が異なります。「アルツハイマー型認知症」が最も多く、次に「脳血管性認知症」となっており、認知症全体の8割以上を占めます。

  • 出典:厚生労働省「都市部における認知症有病率と認知症の生活機能への障害への対応」(平成25年5月報告)をもとに作成

認知症の予防への効果的な運動とは

認知症予防は、「認知症にならない」ではなく、「認知症の発症を遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」ことを意味します。
45~64歳の中年期では、高血圧や肥満、脂質異常症、糖尿病、脳卒中などが認知症のリスクを高めるため、生活習慣病予防を中心とした運動を含めた身体活動が認知症予防のカギとなります。

脳の血流アップ
運動による心拍数の増加は脳への血流を増やし、より多くの酸素や栄養を脳へ届けられます。
脳の成長の促進
適度な運動を継続すると脳の神経細胞を成長させるBDNF(脳由来神経栄養因子)という物質が分泌されます。
ストレスの軽減とメンタルヘルスの向上
慢性的なストレスは脳にダメージを与え、認知機能を低下させます。適度に楽しみながら運動を行うことで、リラックスでき、ストレスが緩和されてメンタルヘルスが向上します。
インスリン感受性(効きやすさ)の改善
糖尿病の方は血糖値が正常な方と比較して、2.1倍アルツハイマー型認知症になりやすいことがわかりました(認知症のコホート研究:久山町研究)。運動はインスリン感受性を改善し、血糖値のコントロールを促進します。

有酸素運動

全身の筋肉を動かす有酸素運動は、脳への血流を増やします。ウォーキング(速歩)やスロージョギング(歩くような速さのジョギング)、水泳、サイクリングなどの中強度の運動が基本となります。
インターバル速歩やインターバルジョギングなどのインターバルトレーニングは、認知機能を維持・向上させます。自然の中で行うなど、リラックスできるような場所を選ぶことで、ストレスの解消にも効果的です。

運動時間・頻度
毎日合計30分以上が理想的ですが、10分間を3回、15分間を2回など、30分間を数回に分け、合計して30分以上となっても構いません。ただし、1回の運動時間は10分間以上が基本となります。毎日の実施が難しい場合、週に3日以上は行うようにし、1週間で150分以上をめざしましょう。

筋トレ(レジスタンス運動)

有酸素運動と同様に、筋トレも脳への血流を増やし、認知機能を維持・向上させます。
とくに全身の筋肉量の60〜70%を占める下半身の筋肉を中心に、全身をバランスよく鍛えると効果的です。
ゆっくりと筋肉を収縮させる際、脳と脊髄、筋肉を結びつけながら体をコントロールする必要があるため、脳神経に良い刺激を与えます。有酸素運動に筋トレを組み合わせることで、インスリンの感受性や代謝を高めます(2月号参照)。週2~3回を目安に連日にならないように行いましょう。軽めの負荷で回数を多く行うのがポイントです。

カーフレイズ・シングルレッグカーフレイズ

今月は脳への血流アップを促す下半身の筋トレ「カーフレイズ」「シングルレッグカーフレイズ」を紹介します。
筋トレは認知症予防だけでなく、介護予防にも効果的です。筋肉量を維持し、高齢期になっても心身ともに自立できるよう定期的に行いましょう。有酸素運動とあわせてトレーニングするといいでしょう。

メニュー
  • カーフレイズ
    かかとを上げてふくらはぎの筋肉(腓腹筋・ヒラメ筋)を鍛える運動です。ふくらはぎの筋肉を強化することで、全身への血流が促進され、むくみも改善します。体幹を安定させ、足首周りの筋肉を鍛えることで、バランス力を向上させます。高齢者の転倒防止にも効果的です。
  • シングルレッグカーフレイズ
    カーフレイズを片足ずつ行うことで、バランス力と負荷を上げます。

このほかにも、下半身を鍛えるスクワットやバランス感覚を鍛えるランジ、上半身と体幹を鍛えるプッシュアップやプランクもおすすめです。

運動の前後はウォームアップ・クールダウン

ケガや筋肉痛防止のために準備運動や運動後のストレッチを行いましょう。

Column
足の刺激は脳の刺激

足裏にはたくさんの神経が集中しています。足ツボマッサージもその仕組みを生かした健康法のひとつです。足裏には7,000を超える神経終末(神経細胞体から伸びた軸索の末端部分)があり、脳とつながっているため、体のバランスを維持したり、地面からの圧力や振動などさまざまな情報を脳に伝えたりしています。
私たちの足裏の感覚も、ほかの器官と同様に加齢とともに低下していきます。ウォーキングなどの有酸素運動は足全体を動かしながら、足裏に地面からのたくさんの刺激を与え続けるため、脳への血流を促進し、神経刺激によりバランス感覚や記憶力が改善されるなど、認知症予防への効果が期待できます。

  • ※参考
    • 健康長寿ラボ「認知症の危険因子と運動による予防」(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター)
    • 令和元年度 厚生労働省老人保健健康増進等事業「海外認知症予防ガイドラインの整理に関する調査研究事業」
      WHOガイドライン『認知機能低下および認知症のリスク低減』邦訳検討委員会
    • 「あたまとからだを元気にする MCI ハンドブック」(国立長寿医療研究センター)

INFORMATION

監修 栁田 昌彦
同志社大学大学院スポーツ健康科学研究科教授。筑波大学大学院体育研究科修士課程修了、群馬大学大学院医学研究科博士課程修了。医学博士。公衆衛生学、老年医学、運動疫学、スポーツ栄養学などを専門分野とし、日本体力医学会評議員、日本循環器病予防学会評議員などを務める。京都府学校剣道連盟副会長、京田辺市健康づくり推進協議会委員長として社会活動を行うなど、多方面にわたって活躍。主な著書に『スポーツ医科学』(中央法規出版)、『健康教育マニュアル第2版生活習慣病予防の保健指導』(日本家族計画協会)など多数。
運動指導 平田 一恵
保健体育教諭。筑波大学体育専門学群卒業後、約30年にわたり小・中・高等学校にて運動指導を行う。近年は、JHHCAホームヘルスコーチや健康管理士一般指導員、ピラティスインストラクターといった資格を生かし、中高年の運動および健康指導へも活動領域を広げている。
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