先月に引き続き、ジュビロ磐田のスポーツダイレクターに就任した藤田俊哉さんにインタビュー。
就任直後からJ2降格、補強禁止処分を受けるなどの厳しい状況を強いられるなか、2023年、J2リーグ2位でJ1昇格を果たしました。当時、選手たちのモチベーションを高めるために伝えてきたこととは。さらに、ニューノーマルの時代に求められる指導者の本質についてお話ししていただきました。
モチベーションアップにかけたJ1昇格
スポーツダイレクターに就任した矢先、国際サッカー連盟から補強禁止処分を受け、新たな選手はひとりも獲得できないことを知りました。正直驚きましたが、2023シーズンは当時のメンバーだけで試合に挑むしかありません。J2に降格して多くの批判を浴びるなか、選手一人ひとりに「この状況を覆せるのは、君たちしかいないんだ」と呼びかけ、「みんなが目指すところはサポートするから、ピッチの上ですべてを出しきってほしい」と約束を交わし、精神的な部分をリードしてきました。そして、選手全員の力を信じた結果、2024シーズンに再びJ1に返り咲くことができました。
ジュビロ磐田は純粋にいいチームです。ただ、長年ヨーロッパのプレーを見てきた私からすると、就任当時はのんびりしているとも感じていました。かつての私がそうだったように、選手たちも自分がピッチに立っていることを普通だと思っているんでしょう。でも、彼らは行動を変えることによって、自分自身の可能性も変えられる特別な場所にいるのです。「選手という限られた時間は君たちに与えられたギフトなんだから、一生懸命やらなきゃもったいない」と伝えてきました。
1年でJ1昇格を成し遂げられたのは、選手たちが多くを犠牲にしながら得た結果。彼らに心から感謝していますし、誇りに思っています。補強禁止処分は二度とあってはならないことですが、いい経験になったと思います。
当時もいまも選手たちには「もっとやれることがあるんじゃないか」とよく言います。たとえば、3000万円の年俸をもらって喜んでいる選手に対して、2億円もらっている選手もいることを忘れてはいけないと。現状に満足してほしくないし、自分自身の成長のためにも情熱を持ってほしいのです。
いまは勝ち点を積み上げて一戦一戦を戦いながら、さらに上のタイトルをめざしています。魅力あるクラブづくりの構想が頭の中を常に錯綜しています。
指導者の本質を見極める
選手だけでなく、監督以下のコーチ陣の人事も私の仕事です。そこはスポーツダイレクターとしてのセンスが求められるところです。たとえば、同じフットボール指導者でもトップチームが向いている人もいれば、ユースチームで育成年代(高校生世代から20歳)の指導に長けている人もいます。
トップチームでのプロ選手の指導は、いまこの瞬間の適切な判断や評価スキルが重要となります。そして何より「情熱」が必要です。常に選手のこと、フットボールのことを考えなければいけません。私もかつては渡欧して監督を志しましたが、並の情熱では足りません。自分の時間はもちろん、自分の全てをチームに捧げることができなければいけないのです。
一方で育成年代の指導では長期的な視野で選手を見る力が求められます。選手によっては思春期の真っ只中であるが故に、指導者の言葉を素直に受け止められなかったり、威厳を示されるとあえて反発したりします。だからこそ育成の指導者には人を惹きつける求心力が求められます。経験値とおおらかさは育成年代の指導者については重要なポイントです。私はそういった視点を持って、指導者陣を確保・采配しています。

本物が求められる時代
いまは世界中から情報が集まり、誰もがタイムラグなくアクセスできる時代。情報化社会の中で育ってきた若手と、彼らを指導・評価する立場にある中堅世代が噛み合っていないと感じています。生きてきた社会や文化、価値観が違うだけではなく、「ごまかし」が効かなくなっているのでしょう。以前の指導者はわかったつもりで理屈を並べても、それなりに周りを納得させることができました。しかし、いまは簡単に情報を入手できますから、適当なことを言っては若手にすぐに見透かされてしまいます。それにまだ気づかないで自分の立場やその威厳をかざし、相手を引っ張ろうとする人もいます。でも、若い世代は役職などの表面的なものよりも、中身や本質を重視するので、上に立つ人間に確固たるスキルやキャリアがなければ、何を言おうと説得力に欠けます。偽物は簡単にバレてしまうのがいまの社会なのです。
私は若い頃から好奇心旺盛なので、各界で「一流」と呼ばれるものを生み出している人たちが、どういうことを考えているのか深く関心を寄せています。現役を引退してからは、さまざまな分野の第一人者の方々とお会いする機会が増え、実際にお話を伺うと知識が豊富なのはもちろんのこと、新しい発想や思考にいつも気づかせてもらえます。フットボールとまったく関係がない世界でも、学べることは多いですし、みなさんの一つひとつの言葉には安心感があります。
もし、大学時代に戻れたら自分はもっと勉強したいですね。素晴らしい学習環境に恵まれていたにも関わらず、当時は余裕がありませんでした。だからこそ選手たちには自分のこれまでの道のりの中で、心残りだったことを強調して伝えたいと思っています。とくにスポーツ界では、選手たちのセカンドキャリアが課題になっています。競技生活を終えて一般社会に出ると、フットボールがすべてではなくなりますから、常に視野を広げて新しいものにふれ、「学び」を続けてほしいと思っています。なにより人生を大きく変え、より幸福にしてくれるものだから。
